直交行列を用いた対角化

AA^\top = A^\top A
を満たす行列を正規行列と言う。正規行列と対角化可能な行列は必要十分条件
y^2 + 2xz = 1
を行列を用いた二次形式で書くと
\bf{x}^\top A \bf{x} = 1,\quad \bf{x} = \left(\begin{array}{c}x \\ y \\ z\end{array}\right), A = \left(\begin{array}{ccc}0 & 0 &1  \\ 0 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{array}\right)
となる。Aを作るポイントは、(i,i)成分にはx_i^2の係数を、(i.j),(j,i)成分にはx_ix_jの係数を半分ずつ割り当てる。そうするとAは必ず対称行列になることが分かるだろう。
さて、対称行列とはA=A^\topを満たしているから、対称行列は正規行列である。よって、必ず対角化可能であることも分かる。
さっと固有値を求めてみよう。
|A-\lambda I| = 0 \quad \Longleftrightarrow \quad (\lambda-1)^2(\lambda + 1)=0
となる。よって固有値1は二重解である。
固有値-1から出てくる固有ベクトル\left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \\ -1 \end{array}\right)
固有値1を満たす条件はx=zなので、yについての条件が落ちている。ここから二本独立な固有ベクトルが生成できる。たとえば\left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \\ 1\end{array}\right),\left(\begin{array}{c}0 \\ 1 \\0 \end{array}\right)がある。
さて、このように選んだ固有ベクトルを並べれば、P^{-1}APによってAを対角化するような行列Pが求まる。しかし、Pに直交行列P^{-1}=P^\topという厳しい制限を加えてやれば、Pは一意に定まる。
何故この制限が必要かは、二次形式の変形という目的に着眼すればすぐに分かる。
\bf{x} = P\bf{x'}なる座標変換があるとしよう。すると
\bf{x}^\top A \bf{x} = (P\bf{x'})^\top A P\bf{x'} = \bf{x'}^\top P^\top A P\bf{x'} = \bf{x'}^\top (P^\top A P)\bf{x'}
となる。これは、カッコ内の行列に対する二次形式となっているが、もしP^\top = P^{-1}を満たすようなPが存在すれば、この二次形式を展開すると
\lambda_1 x'^2 + \lambda_2 y'^2 + \lambda_3 z'^2 = 1
という二次形式の標準形(クロスタームがない形)となることは明らかである。
従って、Pがこの条件を満たすように固有ベクトルを変えてやる必要がある。
固有ベクトルが満たすべき条件は、固有ベクトルが規格直交であること。
今、上のベクトルは意図的に3本直交になるように選んでおいた。よって、後は規格化をすれば十分である。
このようにして
P = \left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \\ -1 \end{array}\right),\;\left( \begin{array}{ccc}\frac{1}{\sqrt{2}} &\frac{1}{\sqrt{2}} & 0\\ 0& 0& 1 \\ -\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}} & 0\end{array} \right)
が求まる。これが直交行列の条件を満たしていることは、試験に出る方は各自確認されたい。
これが求まれば問題を解く上では全く困らないが、ここではしばらく無駄なことを考えてみたい。
x=zという条件から出てくるベクトルは、この組だけではない。
\left(\begin{array}{c}1 \\ 1 \\ 1 \end{array}\right),\left(\begin{array}{c}1 \\ 2 \\ 1 \end{array}\right)
という選び方をしても、もちろんお互い独立で、固有値-1のベクトルとも独立である。よって3本の独立なベクトルとして選ぶことはできる。しかし直交条件は満たしていない(内積とれば0にならないので明らか)。
規格化するのは簡単だ。絶対値を1にすればよいのだから。
しかし、お互い直交しているようなベクトルの組を見つけるのは、決して容易ではないと思う。
\left(\begin{array}{c}1 \\ 0 \\ -1 \end{array}\right),\;\left(\begin{array}{c}1 \\ 1 \\ 1 \end{array}\right),\left(\begin{array}{c}1 \\ 2 \\ 1 \end{array}\right)
から規格直交な3本のベクトルを生成することもできる。この手法がGram-Schmidtの直交化法である。
しかし、Gram-Schmidtはあまりに面倒だ。固有ベクトルの満たす式から、にらむだけで直交条件を満たすように選べないものか。


ということを考えていた。今までは適当に生成した固有ベクトルを規格化するだけで直交条件も満たしていたのだがなぁ。やはりセンスが大事なのだろうか。
今はたまたま見つかったから良いものの、試験中に直交条件を満たすベクトルが見つからなかったら焦るに違いない。
Gram-Schmidtをマスターしろということなのか?


先日の力学は計算不可能にしか思えませんでした。投了。